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Koichiro Yamamoto

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『進行中』『開発中』『発展中』『恋愛中』など、ポジティブな現在進行形のことばを商店街の店先に貼り付けたり、空き地や建物に大きな看板を設置するこのプロジェクト。

何が「進行」して「発展」しているのか、何のことを言っているのか、見る人にはよくわからないであろうが、土地区画整理中のまさに進行形で変化を続けている登戸の街を、歩きながら目にするこのような前向きなことばは、地元住民やそこを訪れる人たちの気持ちを明るくしてくれるのでは、という希望が込められている。

そこに住む人や訪れる人たちは、街が変化していることを、あまり感じることはない。それを感じるきっかけがないため意識しようがないのだ。日常一般のあらゆることについても同様、人々は毎日の生活を素通りするかのごとく、坦々と積み重ねてゆく。

「登戸ING計画」は、この日常に極小の革命をもたらし、「他人ごと」としてサラッと流していたことを「自分ごと」として意識してもらうことを目論んでいる。つまり、「他人ごとと自分ごとの攪拌」行為とでも言おうか。

看板や貼り紙によって刺激された意識や感情が直接、区画整理事業に結びつかなくとも、見過ごしていたほんの小さなことや、自分の現在というものをもっと考えるようになれば、日常がより生き生きしてくるかもしれない。なにも特別なことだけに、発見や驚きがあるわけではない。日常の中にも新たな発見や驚きはたくさん潜んでいるのだ。小さくても良い、ちょっとしたきっかけと、いつもと違う視線、これらがあれば、普通だと思っていたものごとがキラキラ輝きだすだろう。

お客さんが店頭で貼り紙を見て、そこからお店のひとと会話が始まったという後日談は、多くのお店の方から聞くことができた。また、街のいたるところでこのようなコミュニケーションが生まれることが、昨今の社会問題を解決する最もよい方法のひとつだ、という声もあった。

現在をいきいきと生きるための仕掛けとして、さらには、人と人とのコミュニケーションを生む社会装置として、このプロジェクトは機能し、また、我々の行為は、誰もが持っているはずの、心の扉を開くためのスイッチを入れてあげる、きっかけを作る行為であったと言ってよいだろう。

2006.5.22. 山本耕一郎

◎看板総数:35枚 ◎参加店舗総数:55店舗  ◎貼り紙総数:177枚